入門と深遠・現代美術をCTスキャンする 世の中、あらゆるジャンルのガイドブックや入門書があふれている。自分がある程度知っている道なら、選択の見当もつくが、不案内だったり、まさにガイドを必要とする立場にたってみると、「ガイドを選ぶためのガイド」がまず欲しいといった皮肉な状態におかれることに・・。ワカラナイものの代名詞でもある現代美術も、よい道案内を必要とするジャンルにちがいないのだが、退屈せずにひもとける入門書となると、意外に見当たらない。 「現代美術」といえば、一般には、20世紀以後の美術を指すが、今日につづくいちばん近い時代のことがわからないというのも、妙な話である。その理由を考えるなら、まだ歴史となって評価や分析が定まるには早すぎるのに加えて、わずか100年ほどの間の展開があまりに目まぐるしく、またそれが、かつてなく広い地域にわたる混交と多様化を特色としてきた成り行きも見える。 そうであるならば、フォーヴィスムがあって立体派が生まれ・・といった、線的な「美術史」にそれを押し込めることが、そもそも間違いだろう。現代医療の診断には、レントゲンよりもCTスキャナーによる多面的な断層撮影が必須であるように。 こうした可能性と潜在的なガイド不足に応えて、編まれた「現代美術の教科書」である。構成は、大きく2つに分かれて、相互に補完している。前半では、モダンからポスト=モダンまでの現代美術の流れが、それを特徴づける重要な事項に関わる11のトピックスを読むことで、多面的に照明される。印象派から写真メディアへ、抽象におけるパリとニューヨーク、デュシャンとポップ・アートの系譜(ウォーホール・村上隆)、コンセプチュアル・アートとコミュニケーション、ミニマリズム(1960年代)誕生の背景からグローバル化の時代へ、身体観の変容とジェンダーなど、現代美術という生体のCTスキャン(断層画像)のようなトピックスが、それに関わる多くの作品図版とキーワードを縫って、ムダなく記されている。 後半は、見開きページの左右に2点1組で、比較・対照される作品が25組×50点ならぶ。比較される作品は、ジャコメッティの肖像画とジュリアン・オピーのポップな似顔絵、棟方志功の板画と草間弥生の立体オブジェ、ヨーゼフ・ボイスのアクション(行為芸術)とアウトサイダー・アートの鉛筆画、サイ・トゥオンブリーの絵と川俣正の屋外インスタレーション・・というように、表現形式や意図が異なりながら、その差異とともに両者に共通する構造を具体的に語り明かすことで、現代美術の多様にして複合的な特質に近づく仕かけが、凝(こ)らされている。15人のシェフたち(筆者=評論家、学芸員)も、腕の見せどころ。リュック・タイマンス、フランツ・アッカーマン、ローラ・オーウェンスといった近年注目のペインターたちの作品も多くセレクションされているので、入りやすい。 装本、タイトルともに、アート系新入生向け?に超ポップではあるが、内容は、入門ガイドにして深遠。じつは、この1冊自体が「現代美術」という万華鏡のフラクタルなパーツでもありえている。可能性へと開かれた幅のあるマニュアルを手がかりに、組み立てられる〈現代美術像〉は、それぞれの読者の脳と眼とこころにこそ託されている。 美術手帖編集部編/144ページ/A5判ソフトカバー/2,625円 (税込)