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本<鷹見明彦>


「青の歴史」
ミシェル・パストゥロー(著)、松村恵里、松村剛(訳)
筑摩書房

色彩に映りだした文化の意味とは

 色彩の好みは、文化や民族性のちがいによって異なることは、知られているが、欧米では、青の人気が他色にくらべて高い。それは統計的にも、国連の青旗などにもあらわれている。

 中世の象徴体系で平穏の色であった青は、それ以前から聖母マリアや国王の色として、赤と競い合っていた。しかし、ローマにさかのぼれば、青は、敵を威嚇(いかく)するために身体を青く染める習慣のあったケルトやゲルマンの蛮族の色と忌避され、また喪の色でもあった。

 西洋での青の優位が決定的となるのは、近世のプロテスタントの宗教改革以後のこと。宗教改革の時代には、華美な教会美術に対して、ユグノー教徒の色彩破壊運動なども起こった。プロテスタントの道徳観は、黒衣をはじめ、絵画に見られる灰色の階調によるグリザイユ効果や単色画法の多用をもたらした。カルヴァン派のレンブラントと、ルーベンス(カトリック)の作風のちがいには、そのような背景がある。
  時代はくだって、産業革命以後の初期の大量生産商品、万年筆やタイプライター、ヘンリー・フォードの自動車がモノクロームか青なのも、産業資本を推し進めたピューリタンの倫理が作用しているという。

 青の普及について、欠かせないのは、青色染料であるインジゴの貿易による供給だった。中世には、アミアン、チューリンゲン、ザクセンなどの諸都市がその輸入と製造によって、莫大な富を築き、後には、カリブ海域やメキシコなどの植民地でもインド藍の奴隷制大農園が作られた。
  絵具では、18世紀初めのプルシアン・ブルーの開発は、画期的だった。開発者にちなんで、初期には「ベルリン・ブルー」とよばれたこの人工顔料は、それまでのラピス・ラズリ、藍銅鉱、スマルトなどの鉱物顔料ではできなかった青と緑の色階を作り、混色しても透明感のある色調を生みだすことができた。野外の自然と光を描く印象派にとっても、この絵具は重要だった。

 こうした青の波及は、ロマン主義の青やフランス革命(三色旗)や共和制のために闘う軍隊の制服の色となっていった。近代社会での制服の普及からジーンズの流行までが、その色彩の嗜好(しこう)や流通の背景、歴史と社会との関わりと文化史的な解析をとおして語られている。

 先に翻訳された「悪魔の布ー縞模様の歴史」(白水社)や「紋章の歴史」(創元社)でも知られる中世の紋章学を専門とする歴史人類学者の著者は、古代の色彩から、中世、近代の絵画と顔料史、政治や宗教、社会制度のシンボルとしての色彩史など、各ジャンルにまたがって、その該博な知識の翼を広げている。
  すばらしいのは、この1冊を読むことで、青との対比を通して他の色が担ってきた意味についても、理解が深められることだろう。

 色彩について書かれた本は多いが、そのほとんどが光学的な説明か色彩心理学などの概説書である。美術でいえば、技法材料書だろう。本格的にその文化史に踏みこんだ書物となると限られている。
  著者も言うように、ほとんど過去の作品の元の色彩が失われていることや、色彩に対する認識や概念が、時代や社会によって大きく異なるといった事情がその研究の沃野を阻(はば)んでいる。

 同じ著者による「ヨーロッパの色彩」(パピルス刊 1995)とともに、色彩と文化についての視野をひらく、最良の本といえる。

筑摩書房/250ページ+カラー図版16P/A5判/本体4300円+税

   
(2005/11/7update)
     
   
         
 
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