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本<鷹見明彦>


「NEW MuSEUMS」
ミミ・ザイガー(著)、松岡智子(訳)
鹿島出版会

あたらしいハコに映る世界の潮流

 この10年、あるいは21世紀をはさんで、といってもいいが、美術の話題は、一般的には、どんな作品の動向があってどのような展覧会が開かれたかという以上に、あたらしい現代建築の美術館がどこに建って、つぎはどのようなプランが実現されるかというニュースのほうが大きな注目を集めるようになった。

 極端な言い方をするなら、「中味よりハコ」が問題・・なのだが、ここまでくると事はそう単純ではなさそうだ。大きくみれば、コンピュータによる構造設計と素材、工法の飛躍的な進化による建築ブームがあって、ある面では(前近代と同様に)総合芸術としての建築が可能性をひろげて、建築家が現代文化を体現する創造者として脚光を浴びるようになった。

 ただ、こうしたトレンドはアートや建築についての関心がにわかに高まったからというわけではなく、資本と消費のマーケティングによって演出されてきている面は見逃せない。
 身近な例でいえば、東京・六本木の大規模再開発では、美術館がかつてないほど重要なイメージづくりの媒体になっている(六本木ヒルズ/森美術館、東京ミッドタウン/サントリー美術館新館、新国立美術館)。また大都市圏を離れた地方都市でも、金沢21世紀美術館やせんだいメディアテークのような、従来の近代美術館/文化館の分館型や地域型とはちがう新館が生まれて、文化面に限らない効果をあげている。どうやら美術館は、かつての文化の殿堂や名作を拝観する静かな場所から、よくも悪くもキャピタリズムの渦のただ中に移動してしまったようなのだ・・。

 第1の変化は、パリを賛否両論の渦に巻き込んで生まれたポンピドゥー・センター(1977 設計レンゾ・ピアノ)やルーヴルの改造(ガラスのピラミッドなど、I.M.ペイ)、駅や発電所のあとを再利用したことでも話題になったオルセー美術館、テート・モダンなどの成功だった。いずれも1970年代後半からポスト=モダンとよばれた時代のできごとで、ヨーロッパ/英仏の国家的な文化観光政策の産物であり、その戦略は当たったといえる。

 この時期には、まだ美術館建築だけが突出したわけではなく、ポンピドゥー・センターも新時代の首都パリの改造計画の一部だったわけだが、本書の著者もいうように、さらなるステップは、1997年のグッゲンハイム・ビルバオ(スペイン、設計フランク・ゲーリー)あたりを境に、欧米の主要都市に限らず、世界の都市や地域に先鋭な建築家たちの多様な美術館建築がぞくぞくと建ちはじめた。

 加速したグローバリズムを反映し、象徴する現象といえるが、グッゲンハイム・ビルバオを例にとれば、スペイン北部のくすんだ工業都市に湾曲したチタンを銀の羽毛のように波打たせた美術館の出現は、地域を「生活する都市から建築と観光産業の都市に変えていく」効果をもたらした。
 つまり啓蒙君主時代の元型から姿は変わっても、文化啓蒙型/中央集権都市型がプロトタイプであった従来の美術館から、グローバル化時代の表象センターとして機能する分散リンク型の美術館が要請される時代がきたのだ。

 今年2月に各国の美術館館長を集めて東京で開かれた国際シンポジウムのテーマは、「大型美術館はどこへ向かうのか?サバイバルへの新たな戦略」だったが、ここでいう「大型」とは、各地に建設される美術館のネットワーク化が進む現状を指している。
 建築(ハコ)とメディア化、ネットワーク(サーキット)化について、ひとつ明らかな特徴をいえば、グッゲンハイム・ビルバオなどグッゲンハイムが進める各地の分館建設(ラスヴェガス、ベルリン、ベニスほか。東京プランは実現せず)やクンストハウス・グラーツ、森美術館、新国立美術館などは、コレクションをもたないイベント・スペースである。

 本書は、こうした新時代の美術館/博物館を「ニュー・ミュージアム」として、「ポスト・ビルバオ効果」の波にのって世界各地に建った新館(1997ー2004)のタイポロジー(集成)を、31例によってコンパクトに編むことに成功している。
 
 ユダヤ博物館(ベルリン、1999 設計ダニエル・リべスキンド)、テート・モダン(ロンドン、2000 へルツォーク&ド・ムーロン)、フォートワース現代美術館(テキサス、2002 安藤忠雄)、クンストハウス・グラーツ(オーストリア、2003 ピーター・クック)、Diaビーコン(ニューヨーク州、2003 ロバート・アーウィン)、ニューヨーク近代美術館(MoMA)新館(2004 谷口吉生)・・・世界的に話題になった建築もおさえられているが、

 ブレゲンツ美術館(オーストリア、1997 ピーター・ズントー)、キアズマ美術館(ヘルシンキ、1998 スティーヴン・ホール)、小笠原資料館(長野・飯田、1999 SANAA妹島和代+西島立衛)、セラルヴェス美術館(ポルトガル、1999 アルヴァロ・シサ)、牧野富太郎記念館(高知、1999 内藤廣)、石の美術館(栃木・那須、2000 隈研吾)、デ・フェルベールディング・アート・パヴィリオン(オランダ、2001 ルネ・ヴァン・ズーク)、越後松之山自然科学博物館(新潟・十日町、2003 手塚貴晴+手塚由比)など、より地域にあって建築としての個性と特性にすぐれた秀作をむしろ多くフォローしているのが、本書の魅力といえる。

 著者は、アメリカの雑誌の編集者で建築ライター。日本編集の本ではない(原書、Rizzoli 2005)のに、日本人による建築が多く採られているのには、日本の現代建築への国際的な注目度の高さが反映している。
 この本の取材時期後に完成した金沢21世紀美術館(2004)や直島・地中美術館(2004)などは、早ければ間違いなくリスト・アップされたであろうし、ルーヴル美術館分館(ランス、フランス SANAA)、ポンピドゥー・センター分館(メス、フランス 坂茂)など、今後着工予定の美術館コンペでも日本勢の活躍はめざましいものがある(ただし、本書の全体については、この5年に限っても経済発展いちじるしい中国の建築ブームは空前であり、日本以外のアジアが中国の1例だけなのは、取材と時期に限界があったことは否めないが。日本では、仙台メディアテーク(2001 伊東豊雄)がないのは意外)。

 写真とレイアウトも、明確にまとめられていて見やすい。建築雑誌はもちろん、ファッション誌の特集でもいまや現代建築は花形であり、建築家の最新作やプランを集めた洋書や雑誌は迷うほどたくさん出ている。トレンドを紹介する美術館、建築ガイドは山ほどあるが、本書のようにある転換期の動向の断面を包括的な観点からしっかりと見通して、コンパクトに収録した本は、ありそうでなかなか手ごろなものは見つからない。

鹿島出版会/B5変形判・208頁/税込3780円(本体3600円)

   
(2007/5/30 update)
     
   
         
 
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