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映画<鷹見明彦>

「ポロック・2人だけのアトリエ」

世界は変わりつづける

 個展のオープニングで画家の特集記事が載ったライフ誌にサインを求められるファースト・シーンが、時代を感じさせる。1949年秋、NYのベティ・パーソンズ・ギャラリー。いまでは美術史上の名作となったアクション・ペインティングに埋め尽くされた会場の光景は、20世紀アメリカン・アートの栄光と悲劇を体現した画家の生涯の頂点から破滅への岐路になった瞬間にほかならない。映画は9年前へとさかのぼる。グリニッジ・ヴィレッジで明日を模索する新進画家ポロックと女流画家リー・クラズナーの出会いと同棲、ペギー・グッゲンハイムの画廊での初個展(1943)、ロング・アイランドの農家を改造したアトリエへの移住・・といった道のりが、画家同士のカップルの暮らしとともに描かれていく。その後の結末を知る者であれば、床にひろげたキャンバスに絵具や塗料をドリップするアクション・ペインティングの開始(1947)をはさんで、映される大画家の軌跡が10年ほどに過ぎず、アクション・ペインティングの傑作は、わずか5年に満たない短期間に生みだされた事実をあらためて確認するだろう。

 その燃焼は、アルル以後のゴッホともオーバー・ラップする。監督兼ポロック役のエド・ハリス(アカデミー主演男優賞候補)、リー・クラズナー役のマーシャ・ゲイ・ハーデン(アカデミー主演女優賞)ともに成りきりぶりは見事だが、1950年以降、アルコール中毒が悪化したポロックになると、それまでのナイーヴさを同居させた顔つきとは変わって、無精ひげにはゴッホの面貌がダブってくる。ゴッホが麦畑で自死する直前まで制作を続けたのに対して、ポロックは、最期の2年間は制作不能になって、そのまま44歳で交通事故死を遂げる。ほとんど自殺といえる飲酒運転によるその死の原因となったアルコール依存症は、若いころから画家に取り憑いて、悪化のたびに受けた精神分析や絵画療法が作品に大きな影響を与えたことは知られている。酒乱と発作、薬物治療の影はいくどか描かれているが、あまり深くは踏み込まれていない。最期はショート・カットで、ファッション・モデルとの同棲、50年型オールズ・モービルのオープン・カーでの濃霧の夜の暴走と激突死という幕切れがやってくる。

 そのあたりは、ポロックの伝記としては物足りない感もあるが、全体に時代背景やファッション、音楽も入念にシックにそえられて、相当にシリアスな映画に仕上がっている。美術ファンならば、特訓をかさねたというドリッピングによる制作シーンをはじめ、ペギー・グッゲンハイム伝説の「今日の世紀画廊」の再現、デ・クーニング、フランツ・クラインなど若き日の抽象表現主義の巨匠たちにH・ローゼンバーグやグリーンバーグといった名だたる美術評論家を交えたホーム・パーティの激論、ポロックとアクション・ペインティングのイメージを鮮烈に伝えたハイネ・エイムスのフィルムの撮影シーンなど、見どころは多くある。全編に流れるベニー・グッドマンやキング・シスターズのスイング・ジャズとブルース、ラストのトム・ウェイツ《The world keeps turning》も胸に迫る。
 
販売元:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント/時間: 123 分/3,990円(税込)

   
(2005/04/21 update)
     
   
         
 
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