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映画<鷹見明彦>

「ゴッホ VINCENT&THEO」

〈天才〉という魔人の兄弟として

 現在巡回中の「ゴッホ展」(東京国立近代美術館 5月22日まで)、(大阪・国立国際美術館 5月31日〜7月18日)、(愛知県美術館 7月26日〜9月25日)は、一体、日本で何度目のゴッホ展だろうか?
 知名度、人気ともに群を抜くわりには80年代までは意外と少なかったのだが、バブル期に「ひまわり」などが国内にコレクションされたころから後は、2,3年おきに開かれている。その大半は今回同様、主要作を所蔵するオランダのファン・ゴッホ美術館とクレラー=ミュラー美術館のコレクションによるが、これだけ頻繁に催されていても、東京展でも、すでに前半から行列ができる人気ぶり。

 今回の目玉は、一般には、後期の「夜のカフェ・テラス」(1888)、「黄色い家」(同)、「糸杉と星の見える道」(1890)などだが、代表作という面では、比較的地味な内容といえる。むしろ見どころは、(とくにアルル以前の時期に)画家が、どのような時代と社会の思潮のなかに生きていたかが、作品の比較考証と資料展示を含めて、客観的に示されている点にある。オランダ時代の主要モチーフであった聖書、農民、織工などの産業労働について(ハイデガー、アルトー、デリダなどが言及する「古靴」(1886)の展示もあり)、また後年の浮世絵版画への傾倒はもちろん、麦畑とカラスの絵に関して、ミレーやバルビゾン派のドービニーなど先行する画家たちの影響が、実作の対比によって、後づけられている。ゴッホ・ファンにとっても、またゴッホか・・という向きにも、〈炎の天才〉も自分たちと同じように、あるひとつの時代に生きた一人の人間だったというリアリティに触れられる好企画と、お薦めできる。

 さて、映画のほうは、制作されたのが15年前(1990)。ちょうどバブル景気の盛りにオークションでゴッホの作品を次々に高騰させたジャパン・マネーの夢も、頓挫(とんざ)しはじめたころだが、最初はTV番組として制作されたというこの映画の冒頭も、オランダの寒村に雌伏する無名画家の兄と仕送りする駆け出し画商店員の弟テオとの喧嘩に、100年後のロンドン・クリスティーズのオークションで「ひまわり」が、2200万ポンドを記録する場面のオーヴァー・ラップではじまる。原題のとおり、100年後には異国の美術館をも群衆で埋めることになる不遇の天才画家を終世支えた弟の、兄弟2人が主役。

 有名な妊婦のデッサンのモデルとなった娼婦との同棲などのエピソードを軸にオランダでの画家の模索が、弟のパリ生活とは対照的な暗い光彩で映し出されていく。当時流行っていたジオラマ装置の、描かれた海景の内に入り込むシーンが印象的。
 弟の待つパリへ。画商の店で居合わせたゴッホの絵を評価するゴーギャン(かなり似ている)。そこに出てくる作品が、今回のゴッホ展に出品されているイーゼルのある自画像や、卓上にならぶ当時の流行小説本を描いた連作のうちの一作。ゴーギャンが手にして見る〈後の名作〉も、キャンバスが丸められたままだったりする。

 アルルでの制作とゴーギャンとの共同生活。耳切り事件をピークに、サン=レミの精神病院からオーヴェールへ。誰もが知る結末へと進んでいく。ひまわり畑での錯乱など演出、BGMの過剰もあるが、地虫の鳴く岩場でのゴーギャンとの競作、監視付きのサン=レミ精神病院での野外制作、麦畑の内側での制作ポジション、現地ロケによるオーヴェールの下宿からの出棺シーンなど、見どころも多い。

 ゴッホの映画といえば、カーク・ダグラスの「炎の人ゴッホ」(1956)が有名(日本では、滝沢修の舞台)だが、意外に少ないのは、あまたの自画像や手紙から直接受けるゴッホその人の強烈な個性ゆえだろう。この映画でのティム・ロスの健闘ぶりはかなりの善戦といえるが、自画像といわず今回のゴッホ展で見られる同時代の画家が描いたゴッホ像の眼光にくらべても、こぢんまりしている。テオ役の美形ポール・リースは好演。よりテオの側から兄を見つめる作りにすれば、もっと深みが出たはずと惜しまれる。兄の死を看取った1年後に追うように逝ったテオは、37才の兄よりも4才短命で、この兄弟の絆と運命にあらためて心打たれる。

販売元:(株)エプコット/時間: 140 分/3,990円(税込)

   
(2005/05/30 update)
     
   
         
 
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