「カラヴァッジオ」
偶像に血を通わせた男
ルネサンスの栄耀のあと、宗教改革の荒廃の影におおわれたマ二エリスムからバロックへの過渡期に、闇を裂く閃光のように現れて、劇的な作品と伝説を残して、時代を駆け抜けた天才画家。殺人罪による投獄から逃れて、シチリアの辺境をさまよう最期の道行でも、行く先々で魂を震撼させる傑作を描いて、観る者を熱狂させたというその姿は、現代であれば、画家よりも、ロック・スターに近いのか。
わずか36年のスキャンダラスな生涯でありながら、カラヴァッジオは、異端の画家ではない。当時イタリア旅行の途上にあったルーベンスが、ローマでその作品を見て大きな影響を受けたように、バロックという新時代の芸術を切り拓き、体現した大画家だった。ヴェネツィア派の影響下に出発した画家は、ティツィアーノの弟子を自認したが、同世代の画家には、ルーベンス、エル・グレコ、ブリューゲル・・・などがいる。
映画は、ローマを逃れてからの4年間の放浪の果てに、潮騒の聞こえる海辺の町で、死の床にある画家に去来する遍歴の日々を映していく。北イタリアに生まれ、ミラノで修行時代を過ごした画家が、ローマに出たのは、まだ20歳になるかならないかの頃。初々しい「若きバッカス」、そして「聖マタイの殉教」、「キリストの埋葬」、「聖母の死」といった光と闇のコントラストに生身の人間の生気が充ちた大作が描かれていく過程が、高貴な者も娼婦や浮浪者も、モデルにしたという波乱の人生の伝説を照らすように展開する。カラヴァッジオの絵のように、映像もつよい陰影をまとう。
裁判所の記録に残るただひとりの女性名、殺人沙汰の原因になった娼婦を「聖女マッダレーナの改心」や「聖母の死」の〈マグダラのマリア〉にしたり、「キリストの埋葬」のイエスに画家自身をかさねる演出も、カラヴァッジオの際だつ個性の場合は、効果的。ときどき、自動車の騒音が混じって、登場人物が現代にワープするのは、舞台がイタリアのせいもあって、パゾリー二の映画が思い出させるが、いまだ謎の多い画家の伝記とすれば、デレク・ジャーマンにしては、架空の人物が織り交ざってはいても、むしろスクエアな作りの作品といえる。
1986年のベルリン映画祭銀熊賞を受賞し、その後のカラヴァッジオ・ブームに火をつけた。デレク・ジャーマンの映画では、もっともヒットした作品というのも頷(うなず)ける。
販売元:アップリンク/時間: 93分/2,940円(税込)
(2005/08/08 update)
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