「フリーダ」
蘇生したメキシコの花のかがやきと痛み
フリーダ・カーロが、50年に満たない生涯を終えて半世紀、20年ぐらい前には、知る人ぞ知るメキシコ革命と壁画運動の陰に咲いたメキシコ・シュールレアリスムの女流画家が、いまでは20世紀のラテン・アメリカを代表する画家となって、知名度も、夫であった壁画運動の巨匠ディエゴ・リベラを凌(しの)ぐのは、フェミニズムの作用もあるが、点数や大きさは限られていても、一度見たら忘れられないその作品のつよい個性と、同様に烈しい生涯の伝説によるところが大きい。日本でも、1989年のフリーダ・カーロ展以降、何度か関連の展覧会が開かれ、翻訳された伝記も複数ある。
画面のなかから鏡を見つめるように、こちらを凝視する濃い眉(まゆ)がつながった黒い瞳の自画像・・・。フリーダのイメージは、まずトロツキーやイサム・ノグチなど、革命にわき立つメキシコにやってきた男たちを魅入らせずにはおかなかったその自画像の容貌にある。「鏡を見つめる」というのは、たとえではなく、18歳のときに交通事故で負った脊椎(せきつい)と骨盤の損傷に生涯苦しんで、後年には寝たきりになった彼女のベッドの天蓋には、鏡が取り付けられていた。
ファースト・シーンで、フリーダとリベラのコヨアカンの「青い家」(現在のフリーダ・カーロ美術館)ーメキシコ・モダニズム建築の代表作として有名な住宅からヒロインを喪って運び出されていくのは、その鏡付きのベッドである。・・・1922年メキシコ・シティ。ピストルを片手に芸術宮殿の壁画を描く巨漢リベラと18歳の医学生フリーダとの出会い。通学バスの衝突事故が、利発な少女の運命を一変させる。コルセットに縛られた絶望のなかで、絵筆をとって自分や身近な人物を描きはじめる。フリーダの生まれた3年後(1910)に勃発したメキシコ革命は、プレ=コロンビア期の先住民文化と民族芸術の復権を謳ったメキシコ・ルネッサンスを生みだして、リベラは、壁画運動のヒーローとして、その高揚を体現する。
「象と鳩の結婚」といわれた2人の絆(きずな)は、波乱にみちた時代の渦中で、いくども離別の危機に見舞われながら継続し、その愛憎の熱にそれぞれの芸術を産み出していく。壁画運動の同志シケイロス、亡命中のトロツキーやアンドレ・ブルトンのほか、メキシコのモダニズム写真家、ティナ・モドッティやアルバレス・ブラボなども登場する。テオティワカンの大ピラミッドの上で、フリーダとトロツキーが愛と希望を語るシーンは、ひとつのハイライト。
壮大な群衆と神話を描いたリベラに対して、自画像と個人の物語絵を描きつづけたフリーダ。他者を魅入らせずにはおかない美貌と事故の後遺症に苦しみつづけた心身の絶望が、織りなす光と陰のコントラストは、メキシコの太陽と果実、動植物、死者たちの闇と民衆の土着信仰や悪魔払いの奉納絵(レタブロ)の側にある。フリーダの熱く痛みに満ちた生涯には、独立したラテン・アメリカの国々がたどった苦難と秘められた潜在力が重なるようだ。・・・スティール写真では、あまり似ていないようにも見えたフリーダ(サルマ・ハエック)も、フィルムのなかではフリーダの理知と孤独、魔性の魅力をよく受肉している。
ブラザーズ・クエイのパペット人形による死者の国のアニメーション、UFXの特殊効果の挿入は、言葉にならない熱情を託すメキシコ民謡、マリアッチ・スタイルのタンゴやボレロの歌やダンスとともに、呪術的な彩りと深みを添えることに成功している。
2003年、第75回アカデミー賞6部門ノミネート。アカデミー賞とゴールデン・グローブ賞で、最優秀作曲賞と最優秀音楽賞受賞。
販売元:アスミック/時間: 123分/<初回限定2枚組>4,935円(税込)
(2005/08/20 update)
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