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映画<鷹見明彦>

「オランダの光」

フェルメールの光の捜索願いは・・

 日本では、2004年秋に公開されて話題になった傑作美術ドキュメンタリーである。主役は、光ー。「オランダの光」とは、フェルメールやレンブラント、ロイスダールをはじめとするオランダ絵画やスピノザをレンズの製作に向かわせた、オランダの風土特有の光のこと。
 「オランダの光」の伝説は、19世紀にフロマンタンの『オランダ絵画紀行』などによって流布し、マネやモネをはじめとするヨーロッパ、アメリカの画家や作家たちが、フランドル絵画に描かれた風光を求めてオランダを訪れる流行を生んだ。

 光の伝説と正体を探したずねる旅は、アムステルダムやハーグの美術館に所蔵される17世紀黄金期のフランドル絵画から19世紀のハーグ派の風景画(以上30点あまりが紹介されている)、その伝統をつぐゴッホ、あるいはモネ、20世紀のモンドリアンの絵画を経て、遠近法を援用したパノラマ写真の作品で知られるヤン・ディベッツ、さらにヨーゼフ・ボイスやジェームズ・タレルといった現代を代表するアーティストに、美術史家、天体物理学者、気象学者、大陸を縦断する長距離トラックの運転手などによる「光」に関する証言を多面的に集めていく。
 オランダで見られる光は、地平線が延びる平坦な地形に貯められた水とその上に広がる雲の間の反射効果で、ほかの土地にはない密度を持っている。それは、光のアーティストとして知られるジェームズ・タレルや気象学者、オランダ絵画の専門家たちが、それぞれの視点から共通に語り、水槽とライトを使った気象モデルによる実験でも、証明される特性である。

 オランダ現地の風景をはじめ、ゴッホを「炎の画家」にした南仏プロヴァンス、ジェームズ・タレルが、天体の光を火山クレーターのトンネルに映し込む〈ピンホール天文台〉を造りつづけるアリゾナ砂漠、モニュメント・バレーなどを巡って、各地の光との対照に「オランダの光」の特質を浮かび上がらせる。

 「光の捜索」を大きく誘導するのは、20世紀ドイツ現代美術の巨人、ヨーゼフ・ボイスの仮説である。オランダ国境に近いクレーフェルトに生まれたボイスは、オランダの干拓湖を、光を反射して拡散する「大きな鏡の眼」と感受して、1950年代に行われた新たな干拓で地形と水面が変化することで、オランダは、「自分の眼を潰(つぶ)した」と言った。
 この仮説については、学者やオランダ勢のアーティストたちは、物理的にまた精神的に否定論が多いのだが、現代の唯物化と闘った殉教者であったボイスの予言的な洞察を根底においたことは、ドキュメンタリーにいわゆる美術紀行とは異なる深みを与えている。

 冒頭からくり返し定点撮影される湖畔の堤防は、ボイスが指摘したザイデル海の干拓地付近。1日の時間や四季による変化が、可変速のモーション・コントロール・カメラや360°のシークエンスの撮影など、光をとらえる新機材と技術を駆使して記録されている。
 光についての証言の数々も、傾聴に値するが、光をまなざすことの恩寵(おんちょう)を感受するのは、1カット30秒以上におよぶ定点風景にはいり込む瞬間のまどろみにおいて。

2003年 ネーデルランド・フィルム・フェスティバル「金の子牛」賞、
2004年 パラッツオ・ヴェネチア・ドキュメンタリー・フェスティバル最優秀撮影賞ほか受賞

販売元:レントラックジャパン/時間:94分/4,935円(税込)

(2005/09/15 update)

 
 
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