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映画<鷹見明彦>

「パッション」

絵画と映画と〈現実〉が・・・フィクションのあみ目

 1960年代末の「ワン・プラス・ワン」や「東風」の後、70年代は、劇場映画をはなれて「ヒア&ゼア」(76)などのドキュメンタリー作品にむかったゴダール。80年代とともにはじまったヌーベルバーグの旗手の復活と成熟を鮮烈にアピールしたゴダール中期の傑作ー。

 冷戦終結への導火線となったポーランドの連帯運動が進行するさなか、スイスとおもわれる小村で進行するビデオ映画の製作。ポーランド人監督が撮るのは、〈名画による活人画〉ー俳優たちによる名画の再現だった。レンブラント「夜警」、アングル「浴女たち」、ゴヤ「5月3日の銃殺」「裸のマハ」「カルロス4世とその家族」、ドラクロア「十字軍のコンスタンチノープル入城」、エル・グレコ「受胎告知」・・・。

 映画製作スタッフと彼らが滞在する村の機械部品工場の双方に展開する人間模様が平行して映される。労使関係、男女の愛憎、次第に混ざり合う関係に名画再現のセットと現実も、混交していく。
 映画の製作がスケジュールと予算の超過に中止の危機へ追い込まれるにつれて、工場も雇用者と労働者の抵抗にカタストロフィーへ向う。ドタバタ喜劇のような〈現実〉の様相がしだいに露呈していく。
 ラスト近く、冬の森で演出されるヴァトー「シテール島への船出」のシーンも、枯葉上の帆船、ロココの夢と現代の荒涼の交錯が涙ぐましい。やがて〈帰る家〉を失った者たちは、それぞれに雪道を車に乗り合わせて、ポーランドをめざすのだが・・・。

 この映画の製作自体、1980年当時のポーランドの連帯運動と同時進行した経過は、80年代から90年代にかけての世界情勢の激変と密接に関係している。商業映画をラディカルに批判したゴダールは、ここで再び映画とはなにかを脱構築的に周到な仕かけによって追求する方法を編み出したかに見える。
 
 映画監督役は、連帯運動の渦中で撮られたアンジェイ・ワイダ「大理石の男」「鉄の男」で主演したポーランド人俳優イエジー・ラジヴィオヴィチ。
2人のヒロインには、仏独を代表する演技派女優イザベル・ユベールとハンナ・シグラ、脇役にはベテランのミシェル・ピコリというキャストは強力。

 自然光による撮影の駆使という要求をこなすラウル・クタールは、「勝手にしやがれ」以来、ヌーベルバーグ期のゴダールやトリュフォーの傑作を撮ったカメラマン。この映画でゴダール組に復帰したことからも、ゴダールの意気込みがうかがえる。クタールの映像は見事に名画再現と〈現実〉が交差する光と影を織って、映画の変わらない魅力と可能性を印象づけた。

1982年カンヌ国際映画祭・フランス映画高度技術委員会賞受賞

販売元:東北新社/時間:本編88分・特典映像(パッションのためのシナリオ:ゴダールによる解説映像)53分/3,990円(税込)

(2005/11/18 update)

 
 
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