モディリアーニ
ベル・エポックーパリの時代と2本の映画
「リメイク」は直訳すれば「再制作」だが、映画についていえば、名作といわれるような作品があって、それに対してあらたなキャストによって後に作られた作品をさすのが一般的だろう。オリジナルの脚本の場合にもそれはあるが、同じ原作による場合、たとえばドストエフスキーの「罪と罰」に先立つ「白夜」という短編は、ヴィスコンティ(1957)とブレッソン(1971)によって映画化されている。もとの話ではサンクト・ペテルブルクであったはずの舞台が、それぞれの時代のイタリアの港町とパリに設定は変わっている。ヴィスコンティが、マストロヤンニ主演のその映画のロケ地に選んだトスカーナ地方のリヴォルノという港町は、モディリアーニの故郷でもある。
原作がフィクションの場合以上に、実在した人物の伝記に基づく映画では、なおさら最初につくられて成功した作品の印象が、主人公のイメージとも重なって、リメイクでオリジナルの作品をこえるのは困難といえるだろう。
「ゴッホ」といえば、「炎の人」のカーク・ダグラスだろうし、「ロートレック」といえば、「赤い風車」という風に、昔の名画であるほど、記録フィルムもない時代の伝説の天才たちのイメージが、逆に映画によって作り出されてきた歴史がある。モディリアーニの生涯を描いた新旧2本の映画についても、まさにそれは言える。
遺された画家のポートレイトは、伝説にたがわぬイタリアの色男の美貌を伝えている。不遇の死の後におとずれたエコール・ド・パリを代表する画家の名声もさることながら、ある世代以上にとって、モディリアーニといえば「モンパルナスの灯」(1958)のジェラール・フィリップだろう。一世を風靡(ふうび)した美男スターのはまり役によって、画家の名とイメージは一層広められた。
「モンパルナスの灯」から半世紀後にアンディ・ガルシアが製作、みずから主役をはって撮られた「モディリアーニ」は、力作ながら、オリジナルに対してあえて複製をかかげてみせるようなハンディは否めない。
1919年パリ。タンゴの流れるモンパルナスのカフェでは、各国からやってきた新進画家たちが毎夜のように議論と喧嘩に明け暮れている。ピカソ、キスリング、スーチン、メキシコから来たディエゴ・リベラ・・そしてアルコール中毒のユトリロ。コクトーやガートルード・スタインなどのとり巻きをしたがえて意気盛んなピカソと火花を散らすのは、飲んだくれのイタリアの色男ー。
首の長いジャンヌという良家の娘とのなれそめは、画学校で。「蜂の巣」とよばれた画家たちの汚い共同住宅のアトリエで描かれる肖像の眼は、空っぽ。「魂が見えたなら瞳を描こう」と画家はいう。ユダヤ人の私生児など決して許さない父親と娘の諍(いさか)いと同棲。夜の路地に踊る2人をエディット・ピアフのシャンソンがやさしくつつむ。
1982年北イタリア、トスカーナの港町。少年の落書き。窓の下を祝祭の仮装パレードが通過する日に、税金滞納の差し押さえで警察に踏み込まれる貧しいユダヤ人の家庭。・・・
顔の比較でいえば、ジェラール・フィリップよりも、同じラテン系のアンディ・ガルシアのほうが、画家には似ている。ただ「ゴットファーザーPart3」のころにくらべると、結核で36歳で窮死する画家には、貫禄が付きすぎている。ジェラール・フィリップが放つ魔的ともいえるオーラからすると、オペラの舞台俳優に見えてしまうのが辛いところ。
ジャンヌ役のエルザ・ジルベルスタインはなかなかだ。画家に描かれたことで、優美な面影をいまにとどめるジャンヌ・エビュテルヌに似てもいる。身重でありながら後を追って投身自殺する薄幸の境涯を好演している。ジェラール・フィリップにくらべて「女優」の見本のような清楚さで影のうすいアヌーク・エーメのジャンヌよりも、このジャンヌはパリジェンヌの香りがする。もっともエーメのジャンヌは、モディリアーニの愛人だった詩人ベアトリス役を演じるリリー・バルマーのあだっぽさとの対照であったが。前作に対して、ジャンヌの存在が大きいのには、たしかに時代のちがいが反映している。それと「モンパルナスー」では、悪役の画商役のリノ・ヴァンチュラの毒気がよく効いていたことも言っておくべきだろう。
2人の出会いやアルコールと薬物中毒で破綻しかけた画家が、ニースに出かけて(現実にはフジタと一緒だった)再起した作品で、生涯唯一の個展を開くといった筋書きは、途中までは同じだが、行き倒れてかつぎ込まれた病院でのさびしい死からその後の悲劇を映さずに終わるのが、「モンパルナスー」のセンチメントなら、「モディリアーニ」のほうは、すべてにミュージカルのようにドラマ仕立てだ。
仲直りにピカソの運転で2人がルノワールの邸宅を訪ねる(死の前年に画家がルノワールに面会したのは事実だが)設定はおもしろいとしても、「自分は本当は痩せた女性が好みだった」などと老大家に言わせる演出は笑いにくい。サロンのコンクールへのピカソの出品作が、キュビスム風に描いたモディリアーニの肖像だったり、スーチンの吊された肉以外は、ほかの画家たちの作品もモチーフからしていいかげんすぎるのもいただけない。
モディリアーニの新作映画から「モンパルナスの灯」を見なおす機会を持ってみると、その映画を観る者であれば描かずともその前に誰もがひとつの愛の悲劇とそこに生みだされた美への敬意を共有していた時代があったことが痛感された。バルザックやショパン、プルースト、ピアフらが眠るペール・ラ・シェーズの墓地に共に葬られたモディとジャンヌ。その死から30年後に作られた映画のなかでは、「佳(よ)きパリ」という特別な場所と時代への追慕とそのキャストたちへの愛情が光をまとい生きていたことが・・。
「モディリアーニ 真実の愛」 監督・脚本:ミック・デイヴィス、製作総指揮:アンディ・ガルシア /2004年フランス、イギリス、イタリア合作
販売元:パンド株式会社 / 時間:127分 / 4,935円(税込)
「モンパルナスの灯」 監督:ジャック・ベッケル / 1958年フランス
販売元:東北新社 / 時間:104分 / 3,990円(税込)
(2006/5/9 update)
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