アクメッド王子の冒険
よみがえる〈動画〉の原点とその幻惑
ロッテ・ライニガーの「アクメッド王子の冒険」は、1926年ベルリンで上映された史上初の長編アニメーションとして、映画史に記録されている。もとはオーケストラの伴奏付きで映されたサイレント映画だが、1999年ドイツでプリントの修復が行われた後、イギリスでのDVD化にあたってオーケストラの新録音が付けられた。その後、日本でステレオ・サウンド版35mmフィルムがつくられ、昨年(2005)の秋に東京都写真美術館ホールで初公開された。
ライニガーのアニメーションは、切り絵による影絵をガラス板の上で動かしてコマ撮りする手法でつくられている。中国やジャワの影絵芝居の影響もあるといわれているが、「アラビアン・ナイト」にもとづくその絵とストーリーは、エキゾチックでオリエンタリズム(東方趣味)が色濃い。イスラム、中国、南の島を舞台とする魔法にかかった王子の冒険劇だが、ライニガーが手作りで生みだす影絵の人物や背景は、その指先や植物のディテールにまで精気がいきわたって、素朴な光彩とともに力強い生命感とファンタジーが息づいている。そこには、CGを駆使した近年のアニメにはない味わいと幻惑の泉があるようだ・・。
昭和4年に輸入されたオリジナル版をみた映画評論家の淀川長治は、「私は、ドイツの美術、それも動くこの影絵美術に見とれて、魂を奪われた」と後年に書いている。
世紀末のベルリンに生まれたライニガー(1899ー1981)は、幼いころからシェクスピアの影絵劇などに感化されて切り絵に熱中し、劇団に参加した。1919年には初の短編影絵アニメーションを制作。1920年代のベルリンでは、世界恐慌による破局まで〈黄金の20年代〉ともいわれた時代のなかで、ブレヒトの演劇や表現主義の絵画、「カリガリ博士」などの実験映画が生みだされた。
王子が出会う魔法ランプを失って楽園をなくしたアラジンや、善い魔女と魔法使いの大決戦・・といったストーリーには、近づく時代の空気が反映しているのだろうか。
「アクメッド王子の冒険」を3年がかりで完成後は、第二次世界大戦までドイツ、イタリア、イギリスなどで製作、ジャン・ルノワール監督「ラ・マルセイエーズ」の影絵芝居のシーンなどもつくったが、ナチスから逃れて、スイス、パリへ。戦後はイギリスに移住し、BBCの児童向け童話アニメーション・シリーズなどを製作した。
ライニガーが戦争と戦争のあいだに映画の原点をよみがえらせるような魔術的な作品を生みだしたのは、20代の後半。彼女が生きた時代を想像すると、同じドイツに生まれヒトラーの寵愛(ちょうあい)をうけて、ナチス党大会のドキュメント(「意志の勝利」1934)やベルリン・オリンピックの記録映画(「民族の祭典」1938)に才能を開花させたもうひとりのドイツ女性の映画作家、レニ・リーフェンシュタール(1902ー2003)との対照が思い浮かぶ。戦後も長生きをして、ともにその資質をつらぬいたそれぞれの人生においてもー。
このDVDには、特典映像としてライニガーのドキュメントが収録されていて、そのプロフィールとともに絵コンテや切り絵によるアニメーション製作の様子が撮されている。
ただし、ブックレットや解説がないのは、一般には忘れられている歴史的な名作だけに残念というほかない。(下記の作品集セットのほうには付録されている)
「ロッテ・ライニガー作品集」DVDコレクション(3枚組)も同時発売。
「アクメッド王子の冒険」ほか「パパゲーノ」(1935)、「眠れる森の美女」「長靴をはいた猫」(1954)など32作品収録。
1926年ドイツ/白黒(染色)・カラー/66分
販売元:角川エンタテインメント/4,935円(税込)
(2006/9/13 update)
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