田舎の日曜日
秋に観る映画の味わい、古くてーいつまでも新しい
20世紀はじめのある秋の一日、パリ郊外の老画家のアトリエ。
窓からは、庭の緑が朝の光を浴びているのが見える。
老メイドは、シャンソンを唄いながら掃除をしている。自分で靴をみがき、身じたくをする画家。妻に先立たれ余生を送る老画家(ルイ・デュクルー)のもとへ、息子夫婦と孫たちがやってくる日。汽車の到着にあわせて駅に出迎えようとする老人の、10分という道のりの思いこみをメイドが注意する。馬車と車がともに走る田舎道。帽子と背広、すそ長のドレス、子どもたちも正装だが、遊び盛りの男の子たちは、祖父のひろい庭で羽をのばす。
息子(ミシェル・オーモン)の結婚時の男親としての心配、自分も昔は画家になりたかったと語るその息子・・それぞれの過去の心情が、描きかけの室内の絵や居間の長いすの張り替えについて話し、昆虫採集や木登りに興じる孫たちと過ごす時間のなかに入り交じっては去っていく。
老画家と息子夫婦との庭の東屋(あずまや)での語らい・・。「わしは時代に遅れるまいとしてやってきた。ところが時代は日進月歩。ろくなものは出てこない。発明と聞いただけでゾッとする。・・わしの先生はいつも言っていたものだ。絵はむつかしいものだ。ものにするには時間がかかる。またべつな時には、気の毒だが絵では食べていけない。時間のムダだとね。写真が発明された今、先生のことばはよくわかる」
「近ごろ読んだ本のなかで、カリエール(ぼやけた画風で知られる19世紀フランスの画家)についてドガが面白いことを言っていた。絵が動いていると。なぜならカリエールの絵はいつも少しぼやけて見える」
パリから愛車を飛ばして愛娘(サビーヌ・アゼマ)が突然やってくる。穏健な弟とはちがってモダン・ガールの先駆者のような姉は、独身のビジネス・ウーマンらしい。電話ごしのパリの恋の雲行きにだんらんも波乱含みになりはするが・・。
親娘で出かけるドライブ。縞シャツの楽師たちがクラリネット、アコーディオンで奏でるミュゼットやワルツで踊るダンス。屋外レストランの人びと。ボート乗り。・・まさにルノワールやマネの絵に描かれた場景やピサロ、シスレーたちが写した風景の光彩と時間が映しだされる。老いた父は娘に語る。
「わしは独創性をほかの画家のなかに見た。1898・・99年の、セザンヌの大展覧会のときのことだ。刺激されたが、ついて行ったらどうなったことか。・・おそらく勇気に欠けていた。何年か前に手法を変えようと真剣に考えたが。勲章ももらい、地位もできた。他人の独創性を模倣したところで・・わしが認める画家に、モネ、カイユボット、ルノワールに及ぶはずはない。小さな世界だが・・結局自分のものだ。感じるままに描いた。わしは描いた・・。」
観る者は、全体に原色を抑制し、やわらかな中間色をベースに黒の深みと白のかがやきでめりはりをつけたフィルムの色調とトーンに包まれる。それは印象派とはべつな道を行った老画家のパレットの色でもある。
「旧きよき時代を描くにあたって、タヴェルニエ監督は、初期のカラー写真や映画に特徴的だったオート・クローム調の色彩を現代に再現すべく、独自の方式を採用した。現像処理の際に除去するフィルムの還元銀を残し、赤色を抑えて黄褐色や金色、それに白黒のコントラストを強調する独特の色調の画面が生みだされた」
その色彩は、ワン・ショットを原則にしつつ登場人物たちのこころの動きとともに移動していくカメラワークとあいまって、感情のゆれや移ろいが織りなす瞬間の連続としての〈時間の相〉を呼びさましていく。
「失われた時を求めて」(プルースト)の文体と描写のように、たえず現在へと見いだされる記憶の現前を可能にして、それによって、たんなる回顧をこえて、ルノワールの息子が撮った「ピクニック」(1936)からはるかに遅れて製作されたこの作品を、懐かしく、いつまでも新しい・・映画にしている。ほとんどドラマがない地味なこの作品が、公開とともに名だたる映画賞を総なめにした理由もわかる気がする。
(19世紀から20世紀にかけての映画、写真など視覚メディアの発展と画家との関係については、本サイトBOOKのバックナンバー、ジョナサン・クレーリー「知覚の宙吊り」にくわしい)
ベルトラン・タヴェルニエ監督(1941〜)は、ソルボンヌを卒業後、映画批評にたずさわり、「肉体の悪魔」「禁じられた遊び」などで知られる往年の名脚本家ピエール・ポストと組んで「サン=ポールの時計屋」(1973、ベルリン国際映画祭審査委員特別賞)でデビュー。「ソフィー・マルソーの三銃士」(1994)、「ひとりぼっちの狩人」(1995、ベルリン国際映画祭グランプリ)、「コナン大尉」(1996、セザール賞監督賞)、「レセ・パセ/自由への通行許可証」(2002)など。ヌーヴェル・バーグに遅れてきた世代として、フランス映画の伝統を脱構築するような独自の立場をとる。
1984年カンヌ国際映画祭最優秀監督賞、同年イギリス批評家協会賞外国語映画賞、ニューヨーク映画批評家賞外国語映画賞、1985年セザール賞脚色賞、撮影賞、主演女優賞受賞。
1984年フランス/カラー/91分
販売元:東北新社/3,800円(税抜)
(2006/11/14 update)
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