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映画<鷹見明彦>

事の次第

おもしろくて、やがて哀(かな)しき

 「事の次第」というと、映画ファンならヴィム・ヴェンダース監督の同名の初期作品かとおもうかもしれないが、これは、スイスの2人組アーティスト、ペーター・フィッシュリ&ダヴィッド・ヴァイスによる映像作品(原題「DER LAUF DER DINGEーTHE WAY THINGS GO」)。

 吊り下げられた黒いビニール袋が回転しながら降下し、立てられたタイヤに接触→走り出したタイヤが板を持ち上げる→板がテコのように動いて、脚立(きゃたつ)を押す→脚立に押され、木のテーブルが動き、テーブルに押されてクッションが倒れる→クッションに触れた反動で支柱の上に巻き付けられた錘(おもり)のひもが解けて、回転しながら降りてくる→錘に触れて、最初と同じように回転しているビニール袋がタイヤを押す→タイヤが気泡が発生している板を持ち上げる→流れる泡に押されて倒れたペットボトル内の溶液がこぼれ、煙が発生→煙の勢いで、プラスチックのじょうろがひっくり返って白い溶剤が噴出→溶剤が泡になり、板の上に灯されたロウソクの火を飲み込んで炎上→火が導火線に移ってミニ大砲を発射→風船が破裂→・・・・・。

 空の倉庫でいつ果てるともなく、くり広げられていく連鎖反応。一見ラフに見えて、周到にセットされた日用品や道具たちが生みだす物理作用と化学反応に生じる現象とエネルギーの運動は、偶然と必然の際(きわ)に持続するイノセンスでナンセンスなその遊戯に観る者の眼をひきつけてやまない。

 「事の次第」ーとは、絶妙のタイトルだが、私がはじめてこの作品を見たのは、1990年暮に東京国立近代美術館で開かれた「移行するイメージ ー 1980年代の映像表現」展だった。東京と京都を巡回したこの展覧会では、ソフィー・カルやアン・ハミルトン、トーマス・シュトゥルートなど、その後の活躍がめざましい作家たちも紹介されていた。
  なかでも強烈だったのが、「事の次第」のフィルムとスチール写真を出品したフィッシュリ&ヴァイス。1987年に制作された「事の次第」は、現代美術を代表する映像作品のひとつとなって、いちやく、彼らの名をアートシーンにとどろかせた。その後はヴェネチア・ビエンナーレをはじめとする多くの国際展でスイスを代表するアーティストとして活躍している。

 DVDで見直してみると、このフィルムが制作された時代が、ベルリンの壁の崩壊、ソビエトの消滅までもがドミノ倒しに起こりつつあった最中であり、また環境問題〜エコロジーの波が、エントロピーやバタフライ効果、複雑系、ビッグバン理論などを引き連れて、おおいに盛り上がっていた時期であったことも重なって思い出される。「風が吹けば、桶屋が儲(もう)かる」というよりも、時が過ぎても、過ぎるほどに「面白(おもしろ)うて、やがてかなしき」という感慨を催させるのが、名作の名作たる所以(ゆえん)だろう。

 制作から20年目にDVD化されたのは、NHK教育テレビの児童向け番組「ピタゴラ・スイッチ」で話題になった「ピタゴラ装置」の元祖として、〈まぼろしの名作〉が待望されたことも作用したのかも知れないが、喜ばしいかぎり。

 記憶では、15分ぐらいの長さと思っていたら、全編30分だったのも驚きだが、〈連鎖反応〉に隠された?編集箇所を再発見できるのもDVDならではの楽しみといえる。また絶版→ネット・オークション高騰必至→なので、即購入お薦めの逸品である。
  フィッシュリ&ヴァイスのコンビが、ネズミとパンダの着ぐるみをきて旅するロード・ムーヴィー、「ゆずれない事」(1981)と「正しい方向」(1983)の2作品も同時発売。

1987年スイス/カラー/30分 
発売元:アップリンク/¥3,990(税込)

(2007/4/5 update)

 
 
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