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映画<鷹見明彦>

アラン・レネ/ジャン=リュック・ゴダール短編傑作選

ヌーヴェル・バーク前夜の美術ドキュメンタリーなど

 ヌーヴェル・バーグを代表する監督2人の最初期の短編フィルム・コレクション。アラン・レネとゴダールがそれぞれ「24時間の情事(ヒロシマ・モナムール)」(1959)、「去年マリエンバードで」(1961)や「勝手にしやがれ」(1960)、「女と男のいる舗道」(1962)などの本格的な劇映画で一躍、世界の映画界に知られようになる以前、1940年代末から50年代に製作していたドキュメンタリーと習作的な短編ドラマ選集である。

 ゴダールの作品には、エリック・ロメールの原案やトリュフォーとの共同のクレジットがあるように、これらのフィルムはヌーヴェル・バーグ前夜の記録としても貴重だが、まだ無名だったゴダールとちがって、アラン・レネは、すでに美術ドキュメンタリーの名手として知られていて、このコレクションの「ヴァン・ゴッホ」と「世界の全ての記憶」は、アカデミー賞とカンヌ映画祭で受賞している。

 1940年代に作られたアラン・レネによる3本の美術ドキュメンタリー、「ヴァン・ゴッホ」(1948),、「ゲルニカ」(1949)、「ゴーギャン」(1949)は、いずれも原画のモンタージュやクローズアップで構成したモノクロ映像にナレーションと音楽を付ける形式で製作されている。ゴッホとゴーギャン、それぞれの絵をモチーフとした画家の伝記であり、「ゲルニカ」では、初期の具象からキュビスムを経て、「ゲルニカ」や「泣く女」、「山羊を抱く男」などの彫刻を制作したピカソの軌跡がたどられる。(ピカソのドキュメンタリーには、『ミステリアス・ピカソ』という傑作(アンリ・クルーゾー+ジャン・ルノワール、1956、本サイトCINEMAのバックナンバー参照のこと)がある。

 限定された機材と手法によるそれらは、トーキー映画や初期のアニメーションを憶わせる。まだ世界大戦後間もない時期であり、このサイトでも数多く紹介してきた後年に作られたドキュメンタリーに較べれば簡素ではあるが、それらの映像は、かえって画家の内景に迫る力を持っている。ナレーションはマリア・カザレスなど当時のフランスの名優たち、「ゲルニカ」の脚本は詩人のポール・エリュアール、「ゴーギャン」の音楽には、ダリウス・ミヨーが参加している。

 「世界の全ての記憶」(1956)は、フランス国立図書館のドキュメンタリー。未整理の本や書類が山になった収蔵庫や大閲覧室、写本室、版画室、ルイ14世のコレクションにはじまったメダル室など、ボルヘスの言う〈記憶の迷宮〉である図書館の内部が、流麗なカメラワークでとらえられている。一冊の本が、蔵書となるまでの過程や保存修復などの紹介もあって、3本の美術ドキュメンタリーよりは、いわゆるドキュメンタリー映画のイメージにいちばん近い。図書館内の部署同士の連絡が、昔の戦艦と同じようにメッセージ入りのカプセルを送管する方式だったりするのが、この図書館の歴史を感じさせる。
  「スチレンの詩」(1958)では、当時、拡大する消費文明の象徴となりはじめていたプラスチック製品の製造工程が撮されている。原料の石油から成形された製品となるまでの工場のラインを逆にたどることで、カラーフィルムとともにこの文明の創作の秘密を明かそうとしている。シナリオは、「地下鉄のザジ」などで知られる作家レイモン・クノー。
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  ゴダールの3本は、「勝手にしやがれ」(1960)で開花するその個性の始動が、よくわかる初期のエチュード集。

 「男の子の名前はみんなパトリックっていうの」(1957)は、ゴダール最初の35ミリ短編。もとはエリック・ロメールが、パリに住む2人の若い女性を主人公とする喜劇シリーズの一編として構想した原案をゴダールが転用した。同居する2人の女の子が、それぞれ別々に街で男に口説かれて、あとでそれが同じ男だったとわかるまでの話。「シャルロットとジュール」とこの短編にも登場するシャルロット役は、当時ゴダールの恋人だったアンヌ・コレット。パトリック役は、ジャン=クロード・ブリアリ。「水の話」(1958)も、もとはトリュフォーが、パリ郊外の雪解けによる洪水をロケーションして撮影を進めたものの、洪水が引いてしまったために途中放棄したフィルムを素材に報道映画の取材フィルムをモンタージュして、洪水の日にパリに出ようとする娘が送ってくれた青年と恋におちるストーリーを作った。「シャルロットとジュール」(1958)は、「男の子の名前はー」同様にエリック・ロメールの原案とジャン・コクトーの劇を翻案し、シナリオのセリフはトリュフォーが共同で書いた。安ホテルの部屋での男と別れた恋人とのやり取りだが、ジュール(フランス語で『男』の俗語)役は、「勝手にしやがれ」でスターになる前のまだ無名のジャン=ポール・ベルモンド。「美しきセルジュ」「いとこ同士」で主演したジェラール・ブランも出ている。

 ヌーヴェル・バーグは、映画史的には1959年に公開されたアラン・レネの「24時間の情事」を起点とするようだが、そのまさに前夜に作られたこれらの短編には、どれも意識の層をめくるようなアラン・レネやゴダールの即妙な個性の原型がはっきりと見える。

1948〜58年/フランス/モノクロ・カラー/123分
販売元:株式会社紀伊國屋書店/6,300円(税込)

(2008/7/14 update)

 
 
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