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Franz Konwitschny
フランツ・コンヴィチュニー
1901〜1962

サイン入り
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提供:筆者

LPモノラル盤からの出発

レコード鑑賞の生涯記録をとっている
 私はレコード鑑賞の生涯記録をつけている。どんなに地団駄を踏んでみても、まねはできまいというのが私の自慢である。いまから発奮してつけはじめても生涯記録にはならないわけだから。日記をつけている人は数多いと思うが、レコード鑑賞にかぎらず、自分が打ち込んでいることの何かについて、いつ何をどうしたかの記録を生涯にわたってとりつづけている人は、たぶんいないだろう。すくなくともレコード鑑賞となれば、いちいちつけておこうなどと思いつかないと思う。

 私はいつかある時点で、これを集計し、統計データとしてまとめてみたいと考えている。一介のクラシック好きが、その生涯でどの作曲家をいちばんよく聴いたか。どの曲をもっとも多く聴いたか、その曲をだれの演奏でどれくらい聴いたか。演奏家ではだれにいちばん時間をさいたのか。一時期よく聴いていた曲が、作曲家が、他の曲、作曲家に移っていったさまもたどれるだろう。人生のステージで好みがかわっていった軌跡とでもいえるものが、意外性をもって発見できることを自分自身で期待している。これが統計の興味ぶかい点であることを、私は私がやってきた仕事の収穫として知っている。

 厳密にいえば私の人生の最終日まで記録をつづけることは不可能であるし、まして統計データに加えることもできない。そこは体力と脳力がのこっているある時点で打ちきらねばなるまい。読み物にまとめるにはさらに前倒しし、その後のデータについては随時追加していくほかない。演奏会や放送で聴いたものまで記録をとっていれば完璧なデータになったのに、気がつくのがおそく、レコード鑑賞のみになってしまったのは、唯一残念に思っている点である。

 題して「音盤鑑賞之記録」。このコラムでは集計分析にいたるまでの一次データをもとに、音楽とオーディオにまつわるトピックを語っていこうと思う。一個人の記録であるとともに、戦後60年の回顧ともからめて読者諸兄姉の回顧との協和音を奏でられればと願う。

最初の1枚はコンヴィチュニー
 私が自前で初めて買ったレコードが、コンヴィチュニーのベートーヴェン交響曲(全曲。毎月1枚ずつの単売)だった。コンヴィチュニーの来日公演に合わせて、来日記念盤として発売された。全巻購入者には抽選で入場券がもらえるキャンペーンだったが、残念ながらはずれてしまった。余裕がなかったのでコンサートには行かなかった。公演の翌年、コンヴィチュニーは急死してしまい(1962年没)、あれが最初で最後の日本公演となった。永遠に聴く機会をうしなってしまった。思い出すたびに悔やまれる。

 1960年ごろ、レコードはステレオ盤が出始めていたが、再生装置がまだまだ普及していなかったのでモノラル盤と併売されていた。私もステレオ装置は持っていなかった。サファイヤ針、針圧が何十グラムもかかるようなピックアップアームで、スピーカも1個だけのモノラル装置で聴いていた。

 レコード1枚は2300円だったと思う。月収が名目で2万4千円、いろいろ引かれて1万9千円も手取りが残ればよいほうだったので、レコード代2千円は1枚買っても家計を圧迫した。コンサートになど行けそうになかったことはおわかりいただけるだろう。

 そのレコード店はいまはないが、1割引きにしてくれていた。のちに廉価のステレオ盤が出た時、買い替えてモノラルのほうは妹にくれてやった。いま思い返せば、装置にこだわらず最初からステレオ盤を買っておけばよかった。(FONTANA SFON-10501/6)
白紙の耳で聴いた最初の演奏が、そのごの演奏評価の標準になってしまうものだが、私にとってコンヴィチュニーがまさしくそれなのだ。

コンヴィチュニーの「エロイカ」は私のモノサシ

評価の基準はテンポと間(ま)、つぎに強弱
 私は楽器はピアノを我流でバイエルをさらえ、モーツァルトのソナタ K.331 の第1楽章、ベートーヴェンのソナタ ヘ長調 op.49/2 の第1楽章を運指の能力に見合ったスローテンポで、弾くまねごとをした程度。楽譜も譜面を開いて演奏を追っていっても、速いパッセージや繰り返しがあったりすると、たちまち見うしなってしまうレベルだから、もちろん読めない。したがって、使用譜の版を聴きわけできないし、楽器を入れ替えたり追加したりしていてもわからない。音楽学を学んだ人のように演奏の細部を分析的に批評できる知識をもたない。

 そのかわり、私なりの評価基準を持っている。
 私にとって演奏の評価は、まず第一にテンポである。速すぎるテンポは好まない。ついで間(ま)。呼吸というか息つぎというか。間がつまっていると、せからしい。三番目は、うまく表現できないのだが、音の強弱あるいはアクセント。強奏箇所の音の出し方である。どやしつけるような強奏と勢いとは別物だ。この対極の静寂の表現も重視している。

 およそ芸術の要諦は「間」」(ま)にあるのではないか。私がかじったことのある書芸では、文字が入らない「白場」(しろば)、つまり紙の余白部分が作品の芸術性の重要な要素になっている。白場の創造いかんで作品が窮屈になったり騒々しくなったりする。音楽において「間」とは、音を出さない「白場」、すなわち休符の箇所のことである。

「エロイカ」第1楽章をチェックしてみる
 私にとって、テンポと間を判断するのに最適の曲が、ベートーヴェンの「エロイカ」交響曲、とくに第1楽章である。ここをはじめからびゅんびゅんやられると、いっぺんにいやになる。前回で述べたように、すべての曲の演奏が対象とはいわず、ベートーヴェン交響曲演奏に限っても、コンヴィチュニーの演奏は私にとってのモノサシなのだ。

 コンヴィチュニーは最高だ。堂々としている。泰然としたテンポで開始する。開始第1音、総奏のあと四分休符2つが2回出てくる、その間合い、前方を見据え、胸を張って歩みだそうとしている。そのつづき、管楽器が入ってくるまでの弦楽器だけで進行していく箇所のテンポ。これだけですべてがきまってくる。

 第1楽章の演奏時間をCDの表記によって見てみる。CDによっては拍手が入ったり、音が消えてしまってもカウントしているのがあったりで実測せずに採用してしまうわけにいかないが(したがって比較するときは値の差の大きいものどうしをとりあげる。どうしても実測の必要なときは、頭と尻の部分で音を確認しながらプレーヤーのディスプレーに表示された数字をよみとるという簡便法をとる)、コンヴィチュニー盤は19分40秒である(ゲヴァントハウス管 BERLIN CLASSICS ETERNA 0020 005)。私が持っている「エロイカ」のディスク(CDもLPもLD=レーザー・ディスクも)は全部で60種(同一音源の重複分は盤種に関係なくのぞく)あるが、コンヴィチュニーは3番目に長い。

 参考までに各指揮者の演奏時間を一覧でごらんにいれる。最長はジュリーニ盤(SONY SK 58994)である。21分07秒。簡便法で計測したら21分01秒で完全に音が消えた。出だしに1秒の空白があるので誤差はあるだろうが21分00秒とみておく。演奏は悠然といえなくもないが柔和な気がする。

 つぎに長いのは朝比奈盤(1992.3.29 大フィル CANYON CLASSICS PCCL-00171)の20分12秒である。この原稿を書くために全曲聴きなおした。堂々としているところコンヴィチュニーと甲乙つけがたい。こんなにすばらしかったのだな、わが朝比奈御大は、という思いがいまさらのように湧く。

 コンヴィチュニーはもう1種あって(ドレスデン・フィル BERLIN CLASSICS 009041 2)
16分16秒と3分以上も速い。しかしこれでも遅い方から並べて上位に入り、チェリビダッケなみである。ゲヴァントハウス盤があまりにも堂々としすぎているのである。

 最速のグループはトスカニーニ盤(NBC響 トスカニーニ・コレクションの国内盤 BVCC-7003/7)13分47秒、ムラヴィンスキー盤(ERATO 45759 2)13分39秒、そしてイワノフ盤(MELODIYA 33C0715 LP)13分25秒である。よく似ている。とくにムラヴィンスキーとトスカニーニ。こんなに似ていることにいまさらのように驚いた。ぐいぐい突き進んでいく感じである。うらがえせば、せかされているような速さでもある。イワノフは2人にくらべると、こころもちしなやかに感じる。

 ただ、もっと速いのではと予断していたジンマンが15分34秒かかっており、トスカニーニなどよりおそい。しかしトスカニーニやムラヴィンスキーは1音目と2音目のあいだの休符をはっきりとわかるように休止しているのに、ジンマンは休符がないかのようにつづけていて、演奏について行くと呼吸できない。ジンマンのほうが急(せ)いている感じがする。やっぱり芸術において「間」は、ひじょうに大事な要素なのだ。

 最高に速いのはハラス盤(AMADIS 7501)である。わずか13分09秒で、まさに片づけているとか、やっつけているという形容を呈したくなる。速いのなんのって、落ち着いて聴いていられたものではない。
 コンヴィチュニーは「エロイカ」だけでなく、ベートーヴェンの交響曲すべてを悠揚と演奏している。ブラヴォ。

【ベートーヴェン:交響曲第3番 第1楽章の演奏時間 比較一覧】(423KB)

   
(2005/04/26 update)
     
   
         
 
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