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技<植本誠一郎>


<下地をつくる−1 市販カンバスを利用する>

絵画を制作する人達の仕事の準備として「下地をつくる」重要な技があります。
紙や布、そして木材に絵を描こうとすれば、支持体の固有の色を打ち消して絵の具の発色を良くし、その上剥離してこないように固着を助ける「下地」の存在が必要です。
その意味では下地つくりこそが絵画制作の出発点と云えましょう。
下地をつくるにも色々な方法がありますが、今回は市販カンバスへの方法を解説します。
このような場合の下地絵の具はメーカー調製のものを使います。
以下に材料と道具を列記してみましょう。

油性下地用絵の具

鉛白と亜麻仁油で練り上げた「下地用絵の具ファンデーションホワイト」と、この絵の具に色をつけた「有色下地用絵の具ファンデーションアンバー、グリニッシュ、グレイ」があります。一般的にはホワイトで色ものは有色下地に使います。
上記絵の具は固く練り上げたもので、使用時には溶剤(ペトロール、ターペンタイン)で溶いて使います。溶剤比率の目安は絵の具1容量に溶剤1容量で様子をみましょう。この不便さを緩和したのが、チタン白を亜麻仁油、アルキド樹脂で練り、ペトロールで柔らかくした「液状下地用絵の具クイックベース」です。絵の具が柔らかく顔料が沈殿していることが多いので、木べらで良くかき混ぜて使います。
これら下地用絵の具を施すカンバスは水性、油性どのカンバスも使えます。

水性下地用絵の具

云わずと知れたチタン白をアクリルエマルションで練った「アクリルジェッソ」であります。メーカー調製水性下地の代表格でもあり油彩、水彩、アクリル画、そしてテンペラ画と幅広く使われています。ジェッソはそのまま使う場合もありますが、ジェッソに対して10〜20%の水を入れると塗りやすくなります。アクリルジェッソを安心して塗布できるのは、既にアクリルジェッソを塗布済みの水性アクリルカンバスです。

市販カンバスの下準備。

下地絵の具塗布のための必要な下準備はカンバス面にサンドペーパーを掛けることです。

刷毛で塗る。

油性、水性問わず最もポピュラーな道具と方法です。写真に見られるような刷毛を使います。画材の刷毛も良いのですが塗装用刷毛も使えます。固い絵の具には硬い刷毛、柔らかい絵の具には柔らかい刷毛がよいでしょう。刷毛塗りの原則は「薄塗り」で一度に厚く塗ることは避けましょう。塗り重ねは必ず塗装面が乾いてから行ないます。

 

ローラーで塗る。

油性、水性問わず使える道具ですが、道具の洗浄の大変さを考慮すると水性絵の具の使用が多いでしょう。写真のようなローラー用トレーに絵の具を入れ、ローラーを転がして半周に絵の具を付け更に転がして残りの半周に絵の具をつけ、クラフト紙などの上で転がしてローラーに絵の具を均一に行き渡らせカンバスに塗ります。

 

スキージーで塗る。

塗る道具として意外に活躍しているものにスキージーがあります。ことに絵の具を薄く均一に塗るのに効果のあるものです。大きなパレットナイフなどが転用されますが、図のようなものがあれば最適です。スキージー用絵の具は乾燥の遅い油性絵の具が適しています。

 

「技」の事はこれくらいにして、私が経験した下地塗りについて話てみましょう。
下地の方法を様々な方から伺うと「市販のカンバスに施す」意見が多く、当時若く未経験な私としては意味不明でした。この事の効用が分かってくるにはかなりの時間を必要としました。なぜ私が市販カンバスに下地を施すことが理解できなかったかと云うと「すでに下地があるではないか」の思いが強い力を持っていたからです。理屈から云うと「下地が存在するのに新たな下地はいらない」ことになります。
市販カンバスにおける下地の研究は、メーカーサイドではカンバスの性能を決定してしまうような重要なことですから、そこにはかなりの神経を集中しています。
曰く、絵の具の固着が良いように、木枠に張りやすいように、耐久性があるようになど様々な要求を満たしているはずです。ところが、下地を施す方の中に「白いカンバスは既に下地が施されている」と云う事実の認識の無い人がいて対応に苦慮したことがあります。
当然のことながらこのような方は自ら下地を施すでしょう。
さて、下地塗りに関しもう一つの立場に立つ方がいます。メーカー塗布の下地が自らの制作意図に合わないと感じている人です。その結果、カンバスの目を消したい、有色下地にしたい、油性の下地にしたいなどの目的をもって下地を施すことになります。
カンバスの目を消す塗りは、平滑面をつくり細密描画をしたい方に良くみられますが、カンバス目が制作画面から見えなくなると絵の具が厚みを持ったような感じになります。
有色下地は古典的な下地としてつとに有名ですが、下地の色相が画面の発色に大きな影響を及ぼし、その中間明度は光と影の描き分けの下支えになります。
油彩に取り組んでいる方は、一般的に油性下地に安心感を抱いているのは事実です。そこで購入したカンバスの下地が不明であるとか、水性である場合は自ら納得の出来る油性下地を施したいのは人情として良く理解できます。
「カンバスの下地材料が不明だ」と云う件については「水性下地か、油性なのか」に始まって「目止め材は何なのか」「下地絵の具の顔料は鉛白か、チタン白なのか」「顔料を練る展色材はアクリルエマルションか、乾性油か」良く分からないことがあります。つまり組成表示が不十分なのです。ロール巻きの場合は、確かに表示されているものがありますが、「張りカンバス」に関しては皆無であります。これら張りカンバスになりますと「製造年月日すなわちロットナンバー」も不明でトラブルの際の後追いには苦労します。
制作者が最適の下地を求め、メーカーも画家のための良いものを出しているはずなのに情報不足で混乱することが多いのも事実であります。一番多い混乱は、油性下地が施されているにも関わらず「アクリルジェッソ」を塗ることでしょう。ジェッソは水性ですから、下に油性分が存在すると将来の剥落の原因となりましょう。
私は「正確な情報をベースに制作が行なわれる」ことを願ってやみません。それは引いては絵画技術の向上そして表現の確かさに繋がると信じているのです。

 
(2006/3/24 update)
 
         
 
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